不妊専門相談センター 

不妊に悩む周囲の方々へ
[2016.09.16掲載]


 当センターの「不妊・不育にまつわる電話相談」では、当事者のご両親からの相談が増えています。その相談内容から、不妊当事者の抱える悩みも見えてきます。不妊に悩む当事者が、親に望むことをまとめてみました。ご両親以外の身近な方々にも、参考にしていただければと思います。

■親の悩み

 当センターの電話相談によせられるご両親の不安や悩みは、次のようなものです。

  • 娘(息子)夫婦に子どもができません。私たちには何も言ってくれないし、こちらからも聞けません。このまま孫の顔も見られないのかと不安になります。
  • 娘(息子)夫婦が、治療を受けているが妊娠しません。そんなことは、よくあることなのでしょうか。娘(息子)夫婦が特別なのでしょうか。
  • 娘(息子)夫婦は、結婚して数年経つのに妊娠しません。跡継ぎなので、どうしても子どもを産んでほしいのです。治療を勧めたほうがいいでしょうか。どこかいい病院を紹介してください。どんな治療があるのか教えてください。
  • 娘(息子)には持病があります。その病気が不妊の原因なのではないでしょうか。そんな体にした私が悪いのです。娘(息子)夫婦に申し訳なくて仕方がありません。
  • 娘(息子)のパートナーの親族から「跡取りはまだか」と言われます。本当につらいし、すまないとも思います。

■当事者の気持ち


 親として「孫の顔が見たい」と思うのは自然なことです。「悩みがあるのならば話してくれればいいのに」と思う親心もあるでしょう。しかしその親心を伝えることが、当人たちにとっては大きな精神的ストレスになることが多いのです。
 なぜならば、多くの当事者は「親に孫の顔を見せてあげたい」と思っており、「孫の顔を見せてあげられない自分」を責めているからです。それでなくても社会には「女は子どもを産んで一人前、男は家庭をもって一人前」「親になるのは当然」というメッセージがあふれ、当事者たちを外から苦しめています。親からの「孫はまだか」の言葉は大きなプレッシャーとなり、怒りや悲しみ、自責感といった感情となって内側から当事者を苦しめることになるのです。
 また、不妊の悩みは当事者のみだけでなく、家族・親族を巻き込んだ問題になることも少なくありません。「子どもが欲しいとは思わないけれど、家のために子どもを産まなくてはいけないから治療を続けている」という人がいます。子どもが欲しくないのに、痛く苦しい治療を続けなければならないのは、当事者カップルにとって、とてもつらいことです。経済的負担も決して少なくありません。
 残念ながら、不妊治療をすれば必ず妊娠するわけではありません。どこかで区切りをつけなければならない場合もあります。治療を続けるのか、やめるのか、子どものいない人生を選択するのか、養子という選択をするのか、その選択も決して楽なものではありません。迷い悩み揺れ動き、やっとの思いで決断される方が多いのです。

■あなたにできること

 多くの不妊当事者が望んでいること、それは「そっと見守ってほしい」ということです。
「娘(息子)に代わって、とにかく何でも情報を手に入れて伝えている」とおっしゃる親御さんも少なくありません。しかし本当に、娘(息子)さんはそれを望んでいるのでしょうか。親心からくる行動ですが、それゆえに当事者カップルにとって負担となっている場合が多いのです。「焦っている」「情報がほしい」というのは親であるあなたの気持ちであって、娘(息子)さんの希望することではないかもしれません。「子どもの悩み=親の悩みではない」ことを理解し、一線を引く努力も必要でしょう。
 ただ、本人から相談や報告などがあったときは、しっかりと聴いてあげてください。つらく苦しい思いのたけを打ち明ける相手として、あなたを選んでくれたのです。「よく話してくれたね、ありがとう」という思いを伝えてあげてください。
 また、親自身が「そんな体にした私が悪い」と自分を責める必要はないのです。言うまでもなく、不妊は親のせいでも当人のせいでもありません。自分を責める親を見るのも、当事者にとってはつらいことです。
 しかし「頭ではわかっているが、気持ちの整理ができない」ということは、よくあることです。親としても、周囲から「子どもはまだか」と言われるのはつらいことですし、娘(息子)を心配するのも仕方のないことです。そんな「誰にも相談できない」不安や悩みは、当センターの電話相談でお話しください。話をすることで気持ちが楽になります。自分の気持ちを楽にして、当事者に寄り添える理解者であっていただくことが大切です。

>相談をお受けしています
不妊・不育にまつわる電話相談

■心にとめておきたい6つのポイント

当事者に「寄り添う」とはどういうことなのか。ポイントをまとめてみました。 

@「ここにいます」というメッセージ
「本人が言わないのに、こちらから『悩みがあるでしょう』などと言い出すのは失礼ではないか」と多くの人が考えます。
でも、あなただったらどうでしょう。人には言いづらい問題を抱えて悩んでいるとき、大事な友人などから「話したくなったら、どんなことでも聞くからね」と告げられたら……。
おそらく、多くの人が「うれしい」と感じるのではないでしょうか。
もしかしたら、具体的な相談はしないかもしれません。大切な相手だからこそ言いにくい・わずらわせたくない、そんな気持ちも人にはあります。でも、「ここにいます」と伝えてくれたあなたの気持ち、あなたのことは忘れません。
周囲の人ができるのは、「聴く」、そして寄り添う心づもりがあることを伝えること。それが第一歩です。

A本人が口を開くのを待って
話すか話さないか、あるいは「いつ」「どこまで」話すかは、その人が決めること。不妊に限らず、悩みを抱えた人が周囲に期待する態度や言葉は、そのときどきで変化します。一人にしてほしいとき、誰かとあっても何も話したくないときもあります。
ですから、気になるからといって、根掘り葉掘りたずねないでください。腫れ物にさわるような態度も避けましょう。
悩むこと=よくないことと考えず、「これも本人にとって意味のある時間」と受けとめれば、待つこともできるでしょう。

B相手の感情を否定しない
他者の苦しい思いを聴いていると、「悲観的すぎるのではないか」「もっと前向きに考えたほうがよいのではないか」といった気持ちが動き出すことがあります。
でも、悩んでいる人がだれかにそれを話すのは、相手に「理解」や「共感」を期待しているときです。
だから「考え過ぎ」「どうしてそんなふうに思うのか」「そんな小さなことで」などの言葉は禁物。悩んでいる本人の感じ方・感情を、否定したり批判しないでください。

C悩みの背景にコメントしない
「それは、あなたと夫の関係に問題があるのではないか」などと悩みの背景を分析したり、「つまりこういうことなのでしょう」と解釈もしないでください。それは本人がすることです。悩みに対して、聞き手が性急にコメントしないように気をつけましょう。

D「聴く」に徹する
最大のポイントは「聴く」に徹することです。何も言わずただただ聴いてください。具体的には、うなずきやあいづちです。
「うん、うん」「そうだったの」「そんなふうに感じていたの」「うん、なるほどね」
これで十分です。「あなたの気持ちをせいいっぱい理解したい」という姿勢がうなずきとあいづちから伝わっていく、これが大切です。
「話すこと」は、苦しい気持ちを「放すこと」。たまっていたさまざまな感情を解き放し、さらに誰かに「うんうん」と聴いてもらうと、多くの人が「わかってもらえた」と感じます。この「共感」が、本人にとって何よりの励まし、エネルギーになります。

Eアドバイス・励ましもいらない
「大丈夫」「10年たって子どもできた人もいるのだから」「よい病院を知っている」なども不要です。いまお話したように、悩んでいる人が期待するのは、多くの場合まず「共感」だからです。根拠のない励ましや安易なアドバイスは「気持ちをわかってもらえない」と本人をがっかりさせるだけでしょう。
流産・死産をはじめ、大きな喪失を経験した人に「次がある」「いつまでも泣いていてはだめ」などと言うのも、励ましどころか、本人を傷つけてしまいます。

(出典:聖路加看護大学&フィンレージの会(2008):My Dear あなたの身近な人が不妊で悩んでいたら、聖路加看護大学21世紀COEプログラム Women-Centered Care 不妊ケアプロジェクト)

■最後に

 日本では10組に1組が不妊といわれます。決して「珍しいこと」ではありません。「まさか自分の娘(息子)が…」と思われるかもしれませんが、周囲の誰よりも、ご本人が一番悩んでおられるということを忘れないでください。子どものいる・いないにかかわらず、娘(息子)さんは、かけがえのない大切な人にかわりはないはずです。
 また不妊だけでなく、さまざまな理由で子どもをもてない方、生まない選択をする方もいます。子どもをもつか・もたないか、産むとしたらいつ産むのか、それはその当人たちが決めることです。「当人たちの決定を尊重し、応援する = 見守る」という姿勢が、親として、一番大切なことなのではないでしょうか。


【引用・参考文献】
1)聖路加看護大学&フィンレージの会(2008):My Dear あなたの身近な人が不妊で悩んでいたら、 聖路加看護大学21世紀COEプログラム Women-Centered Care 不妊ケアプロジェクト
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